ヨーロッパから上陸した新しいフィギュアキットがダーク・プレイス・ミニチュアです。
日本とは一味違うヨーロッパの歴史トッ伝統から生まれたクリーチャー、キャラクターたちを超絶なディテール表現で再現します。
悪魔が支配する独特な世界観を各フィギュアの造形から感じていただけることでしょう。
蒐集卿:オシュアリー
オシュアリーはかつて人間だった。
他の悪魔達のような生まれながらの奈落の住人ではなく、ましてや王と称されるような存在でもなかった。
彼は、人間だった。
貧民窟に生まれ、貧民窟に育った彼は、数多いる無価値で瑣末な人間の一人にすぎなかった。
彼はその閉じた世界で、惜しみなく与えられる暴力と豊かな恥辱を糧として成長した。
貧民窟は世界に踏み付けにされた弱者達の故郷であった。
そして彼は、その弱者達がさらに踏みつけにするもっとも下層の存在だった。
彼の同輩は多くいた。
そのほとんどは生まれてすぐに死に、それ以外のもの達も多少の長いだけの人生を何を残すでもなく、やはり無意味に死んでいった。
彼もその例に倣うはずだった。しかし、彼の末路は異なっていた。
もはや日常と化した暴行現場。彼は不意に、なんの前触れもなく暴発した。
理由はわからない。
原初的な獣性か、あるいは、ある種の生存本能が目覚めたのか。
暴力に支配される日常の中で、彼の中にある人類種の本質に根ざした闘争心はいささかも損なわれていなかった。
その代わりに失われたのは、彼の痛覚と理性だった。
それらは彼にとって枷だった。過酷な環境にあっては邪魔でしかない神経網のくびき。そこから解き放たれた彼は、自らを取り囲む徒党の一人に狙いを定めると急激な逆襲に転じた。
降り注ぐ打撃も、自らの口から止めどなく流れる滝の如き血反吐も彼は意に介さず、彼は対象を加害した。
理性の束縛から解放された彼の拳は、気まぐれに選ばれた哀れな敵対者に直撃し、その平たい顔面と前歯と薄っぺらい嗜虐心に支えられた貧相な闘争心を完全に粉砕した。
反撃はもちろんあった。彼の一撃には、それに数倍する打撃が生意気な身の程知らずに対する返礼として与えられた。
しかし彼は意に介さなかった。全く何も感じなかったからだ。
痛覚も疲労も息苦しさも、その他全ての彼が生きるにあたって不要と感じる全ての感覚が、鍵付きの箱に閉じ込められたかのように消えていた。
彼は暴力に精通していたわけではない。
彼はこれまで地を這う弱者であり、その体躯は貧弱だった。しかし、それ以上に、あらゆる制御から解放された人体は強靭だった。
彼にとって小手先の戦闘技能など不要だった。ただ闘争心の赴くままに、本能に任せ打擲すればそれで戦闘は成立した。
ゆえに彼はそうした。どんどんそうした。飽きるまでそうするつもりで殴り続けた。しかし一向に飽きる気配がなかったので彼はずっとそうしていた。
そのうちに戦い方が多様化した。肉片を食いちぎり、目をえぐり、狂人としての令名が轟くまで彼は戦い続け、それが来る日も来る日も繰り返されて、ようやく彼に安寧の時がもたらされた。
そして彼は休息した。
ここでようやく、彼を虐げていたもの達は理解した。
奴は、狂人だ、と。
多大な犠牲を払った末に、遅まきながらも彼の危険性を認識した。
しかし、彼らはこうも考えた。奴は手を出さなければ安全だ、と。
こちらから仕掛けない限り奴が力を振るうことはない、と。
そして彼らは、彼を放置することにした。
遅かった。その判断は遅すぎた。
いつの時点であれば間に合ったかのか、それは誰にもわからない。だが間違いなく、この時点において事態は手遅れだった。
今や彼は戦いの味を知っていた。暴力と闘争と勝利がもたらす陶酔を、そして彼を突き動かす本能はその味を忘れることができなくなっていた。
彼は最初、以前のように周囲からその機会が与えられるのを待っていた。
しかし、待てど暮らせどそれが与えられることはなかったので、今度は自らが売ってまわり始めたのだった。
生存と精神的充足のために本能を利用した彼は、同時に本能に支配されるようになっていた。
肥大化した原初的欲求が、彼にもう一つの属性を与える。それは蒐集癖だ。
闘争の瞬間は彼にとって常に甘美な体験だった。だが永遠に続く闘争はない。ゆえにもたらされる快楽も一瞬であり、戦いが終わればその感覚は瞬く間に風化した。
彼はその感覚を忘れがたく思った。闘争における一瞬の恍惚、それを思い返すための縁を彼は求め、必然的な帰結として彼は戦利品を集めだした。
肉片、臓器、珍しい色の目や変わった形の鼻や耳。彼はすべての戦いで得た戦利品を律儀に棲家に集めると無造作に放擲した。
時が経ち、骨以外のものはすべて朽ち果て消えていく。
そしていつしかうず高く積み上げられた白骨の山が、彼の居場所となっていた。
彼はもはや単調な暴力の行使では満足できなくなっていた。
彼がたどり着いたのは人類にとっての最大の禁忌であった。同族殺し、すなわち殺人がより大きな喜びをもたらすことに気づいてからは、彼はそれに明け暮れるようになった。
それはより大きなトロフィーを集める機会であり、彼にとって最高の快楽でもあった。
彼が新たな罪を犯すたび、新たな遺骨が彼のコレクションとして加わり、同時に幾重にも閉ざされた地獄の門の錠前を一つずつ外して行った。
やがて彼は死に、奈落がこれを受け入れた。
オシュアリー:納骨堂
後にそう呼ばれるようになる悪魔の君主を、地獄の縁は蓋を開けて、その坩堝の中へ招き入れたのだ。
こうして蒐集卿:オシュアリーが誕生した。
生前、彼が積み上げた数々のトロフィーは、その凄惨な戦歴にふさわしい姿へともう一度成形された。
奈落は彼の期待を裏切らず、野放しの暴力が支配する地獄の平原が彼の第二の故郷となった。
新たな世界と新たな闘争は様々な新しいトロフィーを彼にもたらした。
彼は嬉々としてそれらを自らのコレクションへと加えて行った。
鋭利な牙、頑強な骨格、力強い翼、そしてそれら全てが象徴する力そのものが彼の新たな渇望の対象となっていた。
ダーク・プレイス・ミニチュア グレイター エンタティ 蒐集卿 オシュアリー 16,800円(税別)
全国の模型店、家電量販店模型売場、オンラインショップなどで2022年3月発売予定。
ホビコレでもご購入可能です 。